カトマンズのタメル地区を散策していると規則正しいリズムで「コンコン・コンコン」と木を叩くような音が聞こえてきました。いったい何の音だろう?と路地を分け入って探してみました。音の正体は、マスクを彫刻している木彫りマスク工房でした。
白木をくり抜き、巨大な立体マスクを制作中でした。撮影を始めてまず筆者が気になったのは彫刻中の木が「ナマ乾き」のように見えました。了解を得て触れてみました。
「生木で湿っている」と感じましたが、木彫り職人さんは「コレは、乾いているんですよ」と説明してくれました。生木の状態で彫刻すると木が乾燥した後ひび割れの原因になるんじゃないかな?と心配しましたがよけいなお世話だったみたいでした。
サンプルも、図面も見ずに黙々と彫刻を続ける職人さん。三次元の立体的な造形のデザインがアタマの中に蓄積してあるのでしょう。複雑な凸凹の表現に別部材を加工した部品を接着するのではなく、一本の木から彫り込んでいくそのテクニックは神業のようにお見受けしました。
職人さんはこの道に入って16年経つそうです。お父さんも彫刻師だったそうで、代々受け継がれる「彫り」のテクニックはDNAレベルで遺伝しているに違いないと感じました。それにしてもお見事!
彫り終わったマスクは、ペイントされニスを塗って仕上げられます。宗教的な儀式に用いられるマスク、伝統舞踊に使われるマスク、工芸品として観賞用に販売されているマスクが壁にズラリと並んでいました。
いずれの顔にも意味があり、役目があるそうです。目の部分には通し穴が開いており、装着して利用できる実用的なマスクでした。
この「木彫りマスク工房」の壁に並んでいるマスクは、一般のおみやげ屋さんに並んでいる「ディスプレー用」に売られているオモチャ的な「お面」とはひと味もふた味も違うレベルの高い伝統工芸のマスクでした。