タンカ(Thanka)とは、チベット仏教の宗教画。タンカはもともと宗教儀式に用いられるために描かれ、寺院の壁や祭壇に掛けられたり巡礼者がお守りのように携行していたそうです。つまりタンカはチベット仏教信仰の対象物、仏画として珍重されてきました。
現在では、仏画や曼荼羅(マンダラ)が描かれたタンカが仏教アート、芸術品としてネパールのおみやげ屋さんにも並んでいます。タンカのアートギャラリーでは、観光客に対して開放的でどの店でもウェルカムなのですが、同業者の目を気にしてか?アトリエはオープンにされていません。
アートな芸術には目のない筆者。どうしても、制作現場を見たくなり「タンカ・アトリエ侵入作戦」の第一歩はタメル地区でタンカ画廊を営むオーナーと仲良くなるコトでした。
ほぼ毎日、お店に通い詰めほぼ一週間。オーナーである画商さんとビールを飲んで冗談を言える関係になってから切り出してみました。「アトリエ見てみたいんだけど、ドコにあるの?」と聞いてみたら『Tony、場所とか内緒にしてくれるならイイよ!明日、アトリエに行く用事があるからココに10時においで』と誘ってもらえました。というワケでタンカ創作工房に侵入できるチャンスをゲットしました。
レンガ造りの半地下にある創作工房に念願かなって侵入成功!ラマ僧(チベット仏教のお坊さん)は無言でタンカに彩色を施していました。
このアトリエは広さ20畳ほどの広さで、朝7時半から夕方5時まで創作活動に使われているそうです。写真には写っていませんが、上の三人のラマ僧の他、2名の女性を含む7名のアシスタントがトレースされた下絵の背景に彩色をしていました。
タンカ制作の工程は、キャンバス作りにはじまり、下絵のトレース、背景の彩色、彩色、金彩色、そして最後に「開眼」という筆入れがラマ僧の師匠によって施され仕上げられます。仏さまの後光をイメージした真円の彩色を見ていましたが、コンパスや定規を使わずクルリと塗り上げる見事な筆運びに驚かされました。
パソコンやスキャナを使ったCG(コンピュータ・グラフィック)が発達した現在、タンカの制作を機械化するコトなんて、カンタンに実現できそうな気がします。でも、それはやっちゃいけない合理化だと私は思います。祈りの芸術ともいえる宗教アート「タンカ」は、非効率的にも思える筆に心を込めたラマ僧の手によって書かれ、彩色されるのがスジだと思います。この大きさのタンカでこの工程まで2週間かかっているそうです。大作になると数ヶ月制作日数が必要なモノもあるそうです。
上の作品で、金色に輝いている部分にはホンモノの金(金粉)が使われています。一般の彩色に使われる絵の具とは違い、金の彩色は見習いアシスタントの手に負えるモノではないそうです。「開眼」を行える師匠クラスのラマ僧だけが金泥彩色を行えるそうです。
完成した仏教アート「タンカ」は表装(織物で作られた額)され店頭に並べられます。タンカには様々なグレードがありその値段もピンからキリまであります。観光客用のおみやげには数万円で取り引きされるモノが、高品質とされています。実際、今回創作工房におじゃまして、筆の使い方や彩色方法を見ていてその差を見極める基本を教えていただきました。
細かい部分の仕上げられ方や、全体のバランスなどで見破れる粗悪品もシロウトさんには見分けがつかないというお店の良心的な説明にもうなずけるようになりました。
もっとも簡単な見分け方は、グラテーション部分の彩色ではないでしょうか?細かい点の彩色で表現される色の変化は高級品と粗悪品では雲泥の差が一目瞭然です。だからコチラが5万円で、コチラは1万円と説明を受けてみると、なるほど納得。
タンカの画廊では値段表示がなされていませんし、規格化された工場製品ではないため「あの店とこの店」で同じタンカの値段の比較もできません。厳密に言えば、似ているタンカは見つけられるが、まったく同じモノは存在しないのです。
宗教アート「タンカ」に魅せられた方は、いきなり買わずに何件かアートギャラリーを廻って審美眼を身につけてから値段交渉して納得いく作品を手に入れて下さいね。