「カンカン・カン」と金属質な音が側道から聞こえてきたので気になって探ってみました。気になる音の正体は自然石を彫るノミを叩くハンマーの金属音でした。チベットからネパールに流れてきたマントラ(仏教のお経)を石に刻み込む職人さんの青空工房を訪ねてみました。
自然石に刻み込まれているのは、チベット文字。「マントラ」と呼ばれているチベット仏教のお経が描かれています。仏教のお経が梵字で刻み込まれた石を英語では Tibetan Prayer Stonesと呼び、日本のチベット仏教界では「マニ石」と呼ぶそうです。
マニ石の使用方法や、起源など詳しい内容を聞き出す事はできませんでしたが、仏教寺院の参道に積み上げられた石のモニュメントや、寺院の周囲の石塀に埋め込まれていました。仏教徒が願いを書き込み奉納する経木と同じような意味合いを持つようです。
チベット文字は漢字やアルファベット文字に比較すると、サンスクリット文字やネパール文字に似ている気がします。職人さんは下書きもせず、サンプルを見る事もなくお経のチベット文字を彫りすすみます。「カンカン・カン」と規則的なリズムの音を放ち、打ち込まれるノミによって均一な深さでありがたいコトバ(教文)が浮かし彫りされていきます。
日本では現在、コンピュータ制御により型をカッティングマシンで出力したゴムマットを石に張りつけサンドブラスト(細かい砂を研磨材にした彫刻機械)で刻み込み石碑や墓石を製作しています。筆者も機械化された、日本の石材加工の工房を訪ね実際に見学させてもらった事もあります。しかし、ネパールではデザインも、彫刻もすべて職人さんの手作業だけで仕上げられていきます。
習熟の期間を除去し、熟練の技を誰にでも使いこなせるようにした日本の石材カッティングシステムも確かにすごいことですが、伝統の技をカラダに身につけた職人さんもスゴイ!アッパレ!チベットの石彫職人!
彫りあげられた石は、白・藍・青・緑・黄・赤・水色のカラーで鮮やかに彩色されます。往年のベネトン・ユナイテッドカラーを思いだしてしまうほど、現代的でカラフルな色遣いで仕上げられます。マニ石にはチベット語でお経が刻まれている他に、マンダラ(仏教における幾何学的な宇宙観)やストゥーパ(仏塔)をモチーフにしたデザインも見かけられました。
カラフルで、珍しいデザインの「マニ石」は宗教的な意味合いを持つモニュメントとして取り扱われるのがその使命です。境内に積み上げられる石碑や、寺院の周囲の石塀の装飾に利用されるために願いを込めて彫り上げられます。ですから間違っても、コレが欲しい!とか言って職人さんからマニ石を買い取って、おみやげとして持ち帰らないようにして下さいね。バチがあたりますよ!(笑)