カトマンズの観光名所「スワヤンブナート」の700段の石段を登る参道の途中で見つけた、起毛刺繍の青空工房からのレポートです。
木綿の布に一針一針、色つきの刺繍糸を打ち込み、裏側に伸びた小さなループを細かくハサミで裁断し切りそろえたのが「起毛刺繍」(筆者が命名した名前)です。もっとわかりやすく説明すると手織りのペルシャ絨毯のような刺繍方法です。
ミシンを使わず、一針づつ打ち込む刺繍糸は、中空の注射針のような針から織りこまれます。ひとつ刺して、引き抜くと裏側にループができる仕組みはちょっとミラクルな感じです。
筆者も数針打ち込ませていただきましたが、とってもカンタンに針を刺せます。しかし、職人さんのように等間隔でまっすぐに打ち込む技術を身につけるまでは、素質と相当の訓練が必要だと思いました。
黙々と、一針づつ入魂の作業が続けられています。彼が精魂込めて創り上げた刺繍は、青空工房の周囲に張りめぐらされています。信仰心の厚いネパール人なら素通りできないブッダをモチーフにしたデザインや、女性が見とれてしまう花柄のサンプルが通行人の足を止めてしまいます。
ここで「いらっしゃい!お客さん、ナンにします?」と会話したら、みやげもの屋さんと同じでお客さんは逃げちゃいますよね。ところがこの職人さんはひと味違った対応を見せるのです。
「ナマステ~」(こんにちは)と声をかけて、「アナタも一針打ち込んでみる?」とやんわり聞いてくるのです。ついこのコトバに乗って一針打ち込んでみると彼の思う壺!刺繍した製品を販売しているのではなく、刺繍キットを販売しているのです。
白い木綿の布、手芸材料、ミラクル刺繍針、カラフルな各色刺繍糸、これらをセット販売するのが彼のメインビジネスだったのです。
とりあえず、スワヤンブナートに登る前だったので「お参りが終わって帰る時にまた来るよ」とその場を逃げ去りましたが、帰りに彼と目が合ってしまいましたが写真だけ撮らせてもらってまんまと「トリ逃げ」させていただきました。ダンネバット(ありがとう)